4DAS:生物・心理・社会モデルに基づく
理論認知症介護学の実践

4DASは、認知症の人に対する包括的なケアシステムであり、その人らしい生活の質(QOL)向上に貢献することを目指しています。
4DASは、認知症を生物学的、心理的、社会的な側面から包括的に理解する「生物・心理・社会モデル」を基盤としています。

理論認知症介護学と生物・心理・社会モデルの関係

4DASでは、認知症ケアを理論的に裏付け、体系化するための学問として「(仮)理論認知症介護学」を提唱しています。
この学問は、認知症介護における経験知を体系化し、普遍的な知識として共有することで、より質の高いケアを提供できるようにすることを目的としています。
生物・心理・社会モデルは、この理論認知症介護学において中心的な役割を果たしています。
認知症を単に生物学的な病気として捉えるのではなく、心理的な要因や社会的な要因も相互に影響し合っているという視点から包括的に理解することで、その人らしい生活を支えるケアを提供できると考えられています。

生物・心理・社会モデル

生物・心理・社会モデルは、認知症を単に生物学的な病気として捉えるのではなく、心理的な要因や社会的な要因も相互に影響し合っているという視点から理解しようとするモデルです。 4DASは、このモデルに基づき、認知症の人を包括的に理解し、その人らしい生活を支えることを目指しています。

生物学的側面

脳の器質的な変化、神経伝達物質の異常を基にした認知機能要因、および生活機能要因、歩行障害の有無など身体機能要因、そしてそれぞれの要因が時間経過とともに変化する時間要因など認知症の生物学的な原因を理解します。

心理的側面

認知症によって生じる不安、抑うつ、怒りなどの感情、記憶力や判断力の低下による心理的な影響を理解します。

社会的側面

家庭環境、社会的な役割、経済状況、地域社会とのつながりなど、認知症の人が置かれている社会的な状況を理解します。

4DASでは、これらの3つの側面を相互に関連付けながら、その人の状態を総合的に評価し、個別的な支援を計画します。
特に、生物学的側面は、認知症の人の状態を理解する上で非常に重要です。
脳の器質的な変化や神経伝達物質の異常は、認知機能や行動に直接的な影響を与えます。
また、身体機能の低下は、生活機能の低下や転倒のリスクを高める可能性があります。
さらに、時間経過に伴う変化を把握することは、認知症の進行を予測し、適切なケアを提供するために不可欠です。

4DASの4次元評価

4DASでは、認知症の人を以下の4つの次元から多角的に評価します。

認知機能障害

記憶力、理解力、判断力などの認知機能の障害の程度を評価します。

生活機能障害

日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)など、生活の自立度を評価します。

身体機能障害

運動機能や感覚機能など、身体的な障害の程度を評価します。

時間経過

認知症の症状は時間とともに変化していくため、過去の状態や変化の過程を評価します。

これらの4つの次元は、生物・心理・社会モデルにおける生物学的側面を評価することに重点を置いています。
4DASでは、この4次元評価を通して、認知症の人の生物学的側面を詳細に把握することで、その人の状態に合わせた適切なケアを提供できると考えています。

4DASのタイプ分類

4DASでは、4次元評価の結果に基づいて、認知症の人を8つのタイプに分類します。

Aタイプ

軽度の認知機能障害と軽度の生活機能障害

Bタイプ

認知機能障害は軽度だが、生活機能障害が目立つタイプ(例:レビー小体型認知症、血管性認知症、仮性うつ病など)

Cタイプ

認知機能障害が目立つが、生活機能障害は比較的軽度なタイプ(例:アルツハイマー型認知症)

Dタイプ

BタイプまたはCタイプから進行した状態

  • bDタイプ
    Bタイプから進行したDタイプ
  • cDタイプ
    Cタイプから進行したDタイプ

Eタイプ

身体機能障害を伴うAタイプ

Fタイプ

身体機能障害を伴うBタイプ

Gタイプ

身体機能障害を伴うCタイプ

Hタイプ

身体機能障害を伴うDタイプ

このタイプ分類は、支援方法を選択する際の指針となります。
例えば、Bタイプの人はリハビリテーションや適切な薬物療法を組み合わせることを主体とした支援を提供すること、Cタイプの人は環境調整を重視した支援を行うなど、タイプに合わせたケアを提供することで、より効果的にQOLを向上させることができると考えられています。

8つのタイプと支援への転換

4DASでは、4次元評価の結果に基づいて、認知症の人を8つのタイプに分類します。

Aタイプ: 軽度の認知機能障害と軽度の生活機能障害

  • 支援への転換
    認知機能の維持・改善を目的とした、脳トレやレクリエーション、生活習慣の見直しや、社会的な活動への参加を促す、将来の不安や悩みに対する相談支援

Bタイプ: 認知機能障害は軽度だが、生活機能障害が目立つタイプ(例:レビー小体型認知症、血管性認知症、仮性うつ病など)

  • 支援への転換
    リハビリテーションや適切な薬物療法を組み合わせることを主体とした支援、生活環境の調整や、家族へのサポート、気分転換を促し、意欲や活動性を高めるような関わり

Cタイプ: 認知機能障害が目立つが、生活機能障害は比較的軽度なタイプ(例:アルツハイマー型認知症)

  • 支援への転換
    環境調整を重視した支援、記憶障害や見当識障害に対する適切なケア、安全な環境の確保

Dタイプ: BタイプまたはCタイプから進行した状態

  • bDタイプ
    Bタイプから進行したDタイプ
  • cDタイプ
    Cタイプから進行したDタイプ
  • 支援への転換
    bDタイプ: Bタイプの特徴である生活機能障害への支援に加えて、認知機能の低下に対する支援、cDタイプ: Cタイプの特徴である認知機能障害への支援に加えて、生活機能の維持・向上に向けた支援、日常生活における介助の提供

Eタイプ: 身体機能障害を伴うAタイプ

  • 支援への転換
    Aタイプの支援に加え、身体機能障害に対するリハビリテーションや介助

Fタイプ: 身体機能障害を伴うBタイプ

  • 支援への転換
    Bタイプの支援に加え、身体機能障害に対するリハビリテーションや介助

Gタイプ: 身体機能障害を伴うCタイプ

  • 支援への転換
    Cタイプの支援に加え、身体機能障害に対するリハビリテーションや介助

Hタイプ: 身体機能障害を伴うDタイプ

  • 支援への転換
    Dタイプの支援に加え、身体機能障害に対するリハビリテーションや介助

4DASの活用

4DASは、認知症の人と家族を支えるツールとして、多様な場面で活用することができます。

チーム内での共通理解の促進

スタッフ間で認知症の人に対する共通理解を深め、チーム全体のケアの質を向上させることができます。

人材育成

新人研修やOJTにおいて、認知症ケアの基礎知識と実践スキルを効果的に伝えることができます。

個別ケアプランの作成

利用者一人ひとりに合わせたオーダーメイドのケアプランを作成し、提供することができます。

家族への相談対応

家族に対して、認知症の状態やケア方法について分かりやすく説明し、安心感を提供することができます。

多職種カンファレンスでの活用

多職種チームでの情報共有や意見交換を促進し、より質の高いケアにつなげることができます。

AIの活用

近年、AI(人工知能)技術の進歩により、4DASをさらに発展させ、より効果的な支援を提供できる可能性が高まっています。
AIは、様々な形で4DASの進化に貢献することができます。

データ分析と予測

AIは、個人の行動や言動、感情などの情報を集積し、分析することができます。
この情報を基に、認知症の方の快・不快の感情を推測し、快の感情を抱くような生活環境を設定することで、より良い生活を提供できる可能性があります。
また、AIは過去のデータから将来の状態を予測し、適切なタイミングで介入を行うことも可能にします。

個別化された支援

AIは、個々の認知症の方の状態に合わせて、最適な支援方法を提案することができます。
例えば、ある人にはリハビリテーションを主体とした生活機能の維持、別の人には変化のない毎日を繰り返すことができる環境設定など、タイプごとの特徴を踏まえた支援を組み立てることができます。

評価の効率化と精度向上

AIを活用することで、4DASの評価プロセスを効率化し、精度を向上させることができます。
例えば、評価尺度の点数付けを自動化したり、評価者間の評価点の違いを補正したりすることが考えられます。

多職種連携の強化

AIは、医療系職種と福祉系職種間の情報共有を円滑にし、連携を強化することができます。
例えば、医学的背景に関する情報をAIが直感的に理解しやすい形で提供することで、多職種間での共通理解を促進し、より質の高いケアを提供することが可能になります。

AIは、4DASの評価、診断、ケアプラン作成、そしてその効果判定まで、あらゆる段階で活用できる可能性を秘めています。
例えば、ウェアラブルセンサーやスマートホームデバイスから収集したデータをAIが分析することで、認知症の人の状態をリアルタイムで把握し、異常を早期に発見することができます。
また、AIは、個々の患者の状態に最適なケアプランを提案したり、過去のデータに基づいて将来の状態を予測したりすることで、より効果的なケアを提供することができます。
さらに、AIは、多職種間の情報共有を促進することで、よりスムーズな連携を可能にします。

しかし、AIの活用には注意点もあります。 AIはあくまでツールであり、最終的な判断は人間が行う必要があります。
また、AIが収集する個人情報の保護や、AIによる偏った判断を防ぐための対策も重要です。
AI技術を倫理的に正しく活用することで、4DASはさらに進化し、認知症の人と家族にとってより良いケアを提供できるようになると期待されます。